ゆったりとした中にも緊張感が漂う工房では、数台の機の前で女性の織り
子さんが作業中。
「緞通は“織る”と言うけれど、糸を引っかけた点の集合なんですよ」と
教えてくれた。経糸(たていと)がかけられた機には、図案が吊されてい
る。織り子さんは図柄指定の色糸を引き寄せると、経糸にくるりくると
かけて結び、右手に持つ包丁をすとんと落として糸を切る。その繰り返し。
よどみなく流れる手の動きは、見とれてしまうほど美しい。
そうやって一段が終わると緯糸(よこいと)を渡し、締金という道具で目を
叩いて、目を安定させ密度を一定にする。
トントントンという心地よい音の正体は、締金の音だった。それにしても、
図案とにらめっこしながらの、果てしなく地道で緻密な作業。
経糸は205本、一畳分の段数は315〜409段。つまり6万4575〜8万3845もの
目をせっせと結ばないといけないのだ。
「とても自分にはできない」と思った。実は織り子さんたちもそう思ったそ
うだ。見学に来てはみたものの、自分には難しすぎる、と。


経糸をとり 織糸をひっかけ結んで 包丁でストン 締金で叩いて目を安定 ハサミで毛の長さを整える